昔々、そのまた昔、今の中国が「春秋戦国時代」だったころ(紀元前770年から紀元前221年)ある田舎の村に心やさしいおじいさんが住んでいました。ある日おじいさんが畑仕事に向かう途中の道端に何か黒いものがいることに気付きました。近づいてよく見ると大変弱ったカラスがいるではありませんか。おじいさんは「何で弱っているのかなぁ。」とひとりごとを言ってさらに近づいてよく見てみると、何とカラスが大けがをしているではありませんか。おじいさんは「何か他の大きな鳥にでもやられたのかなぁ。」と心の中で思いました。そして「かわいそうだから家に連れて行って治療してやろう。」と考えました。そしてやさしく「あーあ。かわいそうに。かわいそうに。」と言ってカラスを抱いて畑仕事のことはすっかり忘れ、急いで家に引き返しました。

 家に着くとおばあさんが「おじいさん、畑仕事もしないで何を抱いて帰ってきたんですか。」と聞きました。するとおじいさんは「道端に大けがをしているカラスを見つけたので
早く治療してやろうと思って帰ってきたんだよ。」とおばあさんにいいました。するとおばあさんは「ええ! カラス!」と驚いて、「カラスは人間に害を与える、嫌われ者ですよ、何でそんなカラスを家にまで運んできたのですか!!」と少し怒ったような感じでおじいさんに言いました。するとおじいさんは「どんなに人間に嫌われているカラスでも大けがをしている生き物を見てみぬふりは、私にはできない。こんなところでお前と話している時間はない。」といって家の奥へと運び、傷口をきれいに洗ってやって薬をぬってやりました。そしてきれいな布でその傷口を縛ってやりました。そして食べ物も少しやり、水もやりました。そのせいか、そのカラスは幾分元気がでてきたように思われました。

そんなことをしているうちに夜がきました。おじいさんは自分の寝ているすぐ横にカラスも寝かせてぐっすりと寝てしまいました。そして次の日もその又次の日も毎日一生懸命治療してやりました。もちろん食べ物、水も欠かさずやりました。おじいさんの家族は「あんな人間に嫌われていて、ひとつもかわいくないカラスなんか助けても何の得もないのに。何の得もないことをよくやれるもんだ。」などと話していました。そんなことを言っている家族の話が聞こえたらしく、おじいさんは家族のところへ行って「もし、お前らが何かで大けがをしていて血がどんどん出て、立つこともできず、歩くこともできないときに、ある人がお前らを発見したときにその人が、何だ、この人はみすぼらしい格好をしているし、何だか変な人みたい。関わらないほうがいいわ。と考えてお前らを見捨てたとき、お前らはどう思う。人間でも動物でもカラスでも生きているものすべては弱っているときは助けてもらいたいのだよ。ただしゃべられないので、そのことを伝えることができないだけだ。」とみんなに言って聞かせました。このことを聞いた家族は黙ってしまいました。

 そんなやり取りなどをしながらも、献身的なおじいさんの努力によりカラスはどんどん回復していきました。そんなある日、おじいさんは「そうだ。お前に名前をつけてやろう。」とカラスにいいました。しばらく考えて「そうだ。カー君というのはどうだ。」とカラスに言ったらカラスが「カーカー。」と鳴きました。するとおじいさんは「お前も気に入ったようだな。これで決まりだ。」と言いました。カラスのカー君が誕生しました。おじいさんは「カー君も自分で好き好んでカラスに生まれてきたわけでもないんだよなぁ。自然と生まれたのに過ぎないのになぁ。生まれたのがたまたまカラスだけの話しだよなぁ。人間に嫌われる鳥に生まれるとは思っても見なかったろうになぁ。人間はすべて自分たちの利害で好き嫌いを決めているからなぁ。こんな人間をカー君、許しておくれ。」と、なんとなんと、カー君に謝っているではありませんか。カー君はこのおじいさんのやさしい言葉で、今まで人間にいじめられたことや、憎まれ口をさんざんいわれ続けたことなどを一機に思い出し、カー君の目には涙がいっぱいあふれてきました。「われわれカラスはただ生きんがために餌を探して食べていただけなのに。」という気持ちでいっぱいだったのです。「人間はカラスよりひどいことをしているではないか。」と、カー君は言いたかったのです。また、「人間は生きんがために、多くの動物や魚などを殺して食べているではないか、われわれは死んだものであろうと何でも食べる。たまに生きている弱い生き物を襲って食べる時もある。しかし、人間はわれわれの比ではないぞ。そして人間は覇権を握るために争っているではないか(当時中国は激しい戦国時代であった)。同じ人間なのに殺し合いをしている。われわれは先祖代々その光景を空から見てきた。何で同じ仲間なのに殺し合いをするのかなぁ、といつも疑問に思っていた。カラスは同じ仲間は殺さないぞ。人間のほうがよっぽど悪いことをしているではないか」。とも言いたかったのです。カー君はただ「カーカーカー。」と鳴いているだけでした。

そうこうしているうちに、おじいさんの治療のおかげですっかり元気になったカー君がいよいよおじいさんと別れなければならないときがやってきました。ようやく本当の友達になったおじいさんとカー君ですが、ある春の暖かい日におじいさんは「カー君、お前はもうすっかり元気になった。お前が生きるところはこの大自然の中が一番だ。きょうはお前を自然の中に戻してやるぞ。」と言葉をかけると、思い切ってカー君を大空めがけて放してやりました。カー君は力強く飛んでいきました。そして隣の家の屋根にとまり何回もカーカーと鳴いていました。おじいさんは「カー君、元気でなあー。」と言いました。

 そんな別れがあってから三年たったある日、いつものように畑仕事にいこうとしたとき、おじいちゃんの家に見たこともない男が一人こっちへやってくるではありませんか。それは何と泥棒だったのです。泥棒は短刀を持っていておじいさんめがけて突進してきたのです。とそのとき、たまたま隣の屋根にいたカラスが泥棒めがけて凄まじい速さで降下してきたのです。そして泥棒の短刀を持っている手を口ばしで激しく何回もつつき、短刀を地面に落としたのです。そして泥棒の右目を口ばしでつつきました。泥棒の目から血が出てきました。泥棒は血を見て怖くなって逃げて行きました。おじいさんは一命を取り留めることができたのです。このカラスはなんと、前に助けたカラスのカー君だったのです。カー君はおじいさんの肩にとまり「カーカー。」と鳴いていました。おじいさんは「カー君、本当にありがとう。お前のおかげで命拾いをした。本当にありがとう。」と何回もカー君に感謝の言葉をかけていました。このことがあってからというものカー君は毎日毎日おじいさんの隣の家の屋根からおじいさんの家を見守っていたとさ。 おしまい