昔々、ある村に、それは、それは大きな百姓の家があったと。田んぼは村一番たくさん持っていたと。そこの家には、そろそろ嫁をもらってもいい、年頃のせがれがおったと。せがれは年に一回の村の秋祭りのときに、ある娘に一目ぼれしてしまったと。そしてさっさと祝言をして嫁にしてしまったと。

ところがこの嫁さんは体が弱く、いつも病弱で重労働の百姓仕事ができなかったと。それでも元気な賢そうな長男を産んだと。でも病弱は直らず、百姓仕事がなかなか思うようにできなかったと。そのことにいつも不満を持っていた、そこのうちの婆さんは「まったく、うちの嫁は役立たずの大めし食いだ」といつも愚痴を言っていたと。村じゅうに、こんなことをいつも言いふらしていたと。せがれが「そんなことを言うのだけはやめてくれ。嫁さんがかわいそうだ」と婆さんに頼んでも、婆さんは聞き耳もたなかったと。この婆さんは嫁にいたわりの言葉一つなかったと。

ある日、婆さんが爺さんに「うちの嫁は何の役にもたたない愚図嫁なので、追い出そう」と相談したと。爺さんも婆さんの考えに賛同したと。爺さんはそこのうちの婿さんだったと。ずぅーと、婆さんの尻に敷かれていたと。

それから数日後、婆さんがせがれに「嫁は何の役にも立たないから一人で出ていってもらうぞ」と言ったと。婆さんは、せがれを跡取りとして育ててきたので、きっと自分の言うことを聞いてくれるとばっかり思っていたと。しかし、それを聞いたせがれはびっくり仰天して、婆さんに「嫁が出て行くなら、俺も一緒に出て行く!」と言ったと。それを聞いた婆さんは、自分が考えているとおりにいかなかったのでびっくりして「お前はこんなにいっぱいある田んぼより、嫁さんのほうがいいのか」と言ったと。するとせがれは「そうだ。田んぼなんかいらねぇ。俺は嫁さんがいい。嫁さんがどんなに病弱だろうと、俺は嫁さんを、愛してるんだぁー!!」と言ったと。それを聞いた婆さんは「何でこんな軟弱なせがれになってしまったのだろう」と思ったと。そしてそのことを知った村の大多数の人達は、このせがれを「根性なしの馬鹿せがれ! 根性なしの馬鹿せがれ! 」と言って馬鹿にしたと。しかし、ごくごく一部の村の人は「あれほどの多くの財産を捨てて、愛を選ぶことは、なかなかできるものではない。どんな人生になろうとも、きっと家族ともども本当の幸せをまっとうするに違いない」と言っていたと。

そんなこんだ、しているあいだに、せがれと嫁はさっさと長男もつれてある町へ引っ越していったと。引っ越した後、爺さんはすぐに死んでしまったと。婆さんはあとのことが心配になったので、ちょうど年頃の、うちにいる一人娘に相談したと。そしてその娘に婿さんをもらって、うちを継いでもらうことにしたと。

それから一年後、隣村からりっぱな体をした、丈夫な婿さんをもらったと。この婿さんは風邪ひとつひかない、体の丈夫な人だったと。百姓仕事をするために生まれてきたような人だったと。働くは、働くは、馬車馬のごとく働いたと。婆さんはいい婿がきたと喜んで、村じゅうに言いふらしていたと。

ところがしばらくして、この婿さんの本当のことが分かってきたと。実はこの婿さんは大酒のみだったと。半端なものではなかったと。この大酒のみを隠して婿に入ったと。田んぼ仕事が終わってからというもの、飲むわ、飲むわ。これには婆さんもあいた口がふさがらなかったと。毎晩、毎晩、酒がなくなると酔っ払って「おーい!! 酒買って来い!! 」と怒鳴る始末だったと。いくら田んぼがいっぱいあっても収入のほとんどは酒代に消えたと。婆さんはこのことが、心配で、心配で夜も眠れなくなってきたと。くわえて、この婿さんと一人娘とのあいだにはどんなにがんばっても子供ができなかったと。

ある日婆さんは、とうとう堪忍袋の尾が切れて爆発したと。この婿さんに向かって「この大酒のみの馬鹿婿が!! 酒代でうちの財産を食いつぶす気かぁー!! お前なんか出て行け!!」と大声で怒鳴ったと。それを聞いた婿さんは「こんなうち今すぐ出て行ってやる!! この鬼婆!!」と捨てぜりふを残して、翌日さっさと出て行ったと。

そしてこの婿さんが出て行った数年後に一人娘が、急なはやり病であっという間に死んでしまったと。また別な新しい婿をもらおうと考えていた婆さんはがっくりしてしまったと。そんな心労がたたって、さすがの婆さんも百姓仕事ができなくなり、田んぼは荒れ放題になってしまったと。一人娘が死んでから3年後にこの婆さんもさびしく死んでしまったと。この婆さんが死んだことで、この村一番の大百姓の家は滅んだと。

ところが、ところが、町に引っ越したせがれは、商売を起こして成功していたと。一粒種の長男も立派に成長していたと。この長男がなかなか優秀で親父の商売を助けたと。そして、なんと嫁さんは最初に引っ越してから3年後ぐらいには体も丈夫になり病気一つしない人間に生まれ変わっていたと。そしてこの長男の代で商売を大きく広げ、町一番の大金持ちになったと。この長男はただ単なる金持ちだけではなく、町の恵まれない人達の面倒もかげながらみていたと。そして、出て行った婿さんも親戚の人の説得がきいて、実家に帰ってきて1年後に大酒のみは直って、すっかり生まれ変わっていたとさ。         おしまい