昔々、ある山奥の村に何でもかんでも感謝する変わった貧乏なおじいさんが住んでいました。朝起きれば「空気さんありがとう。お日様さんありがとう。木さんありがとう。鳥さんありがとう。」などと何でもかんでも感謝していました。なんでも、このおじいさんは若い頃大変苦労したとのことです。そのせいか、頭は白髪でいっぱいでした。又、自分の長男の嫁をいつもほめていました。世間には「うちにはいい嫁が来た。いい嫁が来た。うちのせがれにはもったいない嫁だ。」などと言っていました。嫁の作った料理が少しぐらいまずくても「おいしい。おいしい。」と言ってニコニコして食べていました。このおじいさんは村では「感謝じいさん」と呼ばれていました。そのおじいさんの少し離れたところにそのおじいさんとは反対の金持ちで何でもかんでも不平不満愚痴ばかり言っている変なおばあさんが住んでいました。朝起きれば「まったく、チュンチュンチュンチュンと、朝からうるさいすずめだ。」とか、カラスがカァーカァーと鳴いていれば「まったくうるさいカラスだ。」とか、犬がほえていれば「うるさい犬だ。何をほえているんだ。あんまりうるさいと食ってしまうぞ。」などと何でもかんでも不平不満愚痴ばかりを言っていました。

自分の息子の嫁のことについても「まったくうちの嫁は何をやってもだめだ。」などと、いつもガミガミガミガミと、けなしてばかりいました。こんなことなのでここの嫁はとうとう耐え切れずに、隣村の実家へ帰ってしまいました。娘の婿が遊びに来ても「まったく、又何かほしいので家にきたのだろうが。たまにはおいしいものでも買ってこい。なんだかお前の顔を見ているといらいらしてくるよ。このブ男が。なんでお前は背が低いのかね。まったく。」などと人の嫌がることを平気で言うのです。又、隣の人といつも土地の境界線のことで争っていました。隣の木の枯れ葉が自分の土地に落ちただけでガミガミと文句を言いに言っていました。何でもかんでもこの調子なのでみんなに嫌われていました。このおばあさんは村では「不平不満愚痴ばあさん」と呼ばれていました。このおばあさんは親の財産を相続して大金持ちでした。何の苦労もなく育てられたのでした。そして生まれてこの方、何かに感謝することは一回もなかったのです。当然ながらもうとっくの昔に、このおばあさんの婿さんはこの家を出て行っていました。

そんなある日のこと、みすぼらしいお坊さんがこの山奥の家々を托鉢して回っていました。そのお坊さんが「感謝じいさん」の家に立ち寄りました。そして玄関の前で、「御経」を唱え始めました。すると感謝じいさんは「こんな山奥の村まで回って大変ですね。ご苦労様です。私の家にまで来てくれてありがとうございます。私の家は貧乏です。あなた様に差し上げるものがありませんが、きょう食べる予定にしていた少しのお米を差し上げます。あなた様はこうして多くの人達のために足を棒にして人様の幸せのために祈ってくださる。ありがたいことです。どうか受け取ってください。」といってお坊さんに、今日食べる予定にしていた大切なお米を差し出しました。するとお坊さんは「ありがたいことです。大変貴重なお米をいただきます。」と率直に喜びました。そして「きょう食べるお米がなければどうしますか。」とお坊さんが聞くと、感謝じいさんは「一日ぐらい食べなくとも人間死ぬことはありません。私は又あした働いて米を買います。かえって一日分ぐらい抜いたほうが健康にいいですよ。ワッハハハハァ・・・」と大声で笑っていました。最後にお坊さんは「ありがとうございました。」と一言言って去っていきました。

次にお坊さんはすぐ近くの大金持ちの「不平不満愚痴ばあさん」の家に立ち寄りました。そして「御経」を唱え始めたすぐに、このおばあさんは「何だ、くそ坊主か。ずいぶん貧乏たらしい格好しているもんだ。うちにはくそ坊主にやるものなど何もないよ。さっさと別な家にいっておくれ。」などといいました。するとお坊さんは「そうですか。分かりました。」と言って別なところに行こうとしたそのとき、家の隣にある大きな蔵を見て「蔵の中に有り余るお米があるのですね。」とお坊さんは言いました。すると不平不満ばあさんは「その米はうちで食べるもので人にやるものではない。」と乱暴なことばで言いました。そして最後にお坊さんは「そうですか。」と一言言ってその家から去って行きました。すると不平不満愚痴ばあさんはいつものように「まったく忙しいのに、このくそ坊主が。」とそのお坊さんの後姿を見てそんな言葉をかけてしまいました。お坊さんはその言葉は聞こえたのですが、何も言わずに歩いて別な家に向かいました。

そんなことがあってから数年後にいよいよ「感謝じいさん」と「不平不満愚痴ばあさん」にもこの世から去らなければならない時がやってきました。感謝じいさんは何の病気もせずに寿命を全うしようとしています。臨終の床にあるのですが感謝じいさんは「私の人生は幸せだった。これもみなさんのおかげです。本当に感謝します。もうすぐ仏様がきっと私を迎えに来てくださると思います。みなさんありがとうございました。」と小さな小さな声で床の周りいる家族や近所の人に感謝じいさんらしく最後の最後まで感謝の言葉を言っていました。もうまばたきをする元気もなくなってきたそのとき、静かに息をひきとりました。その感謝じいさんは笑みを浮かべた本当に安らかな顔をしていました。仏様がお迎えに来てくださったのです。感謝じいさんは極楽浄土へと旅立って行きました。

感謝じいさんがあの世へ旅立ってから半年後にこんどは不平不満愚痴ばあさんが臨終の床にいました。このおばあさんは原因不明の奇病に冒され、体全体が痛くて痛くてたまりません。臨終の床にあっても「痛い、痛い、痛い、苦しい、苦しい、苦しい、ああー誰か助けておくれ。」とそれはそれは大変なものでした。床の周りにいる人達も目のやり場のない光景でした。そして「ああ、死にたくない、死にたくない。」と繰り返し言っていました。そしてそんなことを繰り返している時、いよいよ最期の時がやってきました。「ギャアー」その悲鳴が最期の言葉でした。おばあさんの顔は鬼のような形相をしていました。このおばあさんは閻魔大王が使わした鬼が向かいに来たのでした。このおばあさんは地獄へと旅立っていきました。今後地獄で閻魔大王による生前の罪についての厳しい取調べと罰が待っているのでした。           おしまい