敵に勝つ力が何にもない弱い、弱い「ミーちゃん」の悲しい物語。この機会に何の力もない小さな命のことを思うことによって人への思いやり、いたわりのことを考えるきっかけになれば幸いです。

昔々、ある村の百姓の畑に、それは、それは、栄養満点の堆肥が積まれていました。その堆肥の中では、若い母ちゃんミミズと、父ちゃんミミズの夫婦から、一匹のかわいいメスの赤ちゃんミミズが誕生しました。母ちゃんと父ちゃんは最初の赤ちゃんだったので、その喜びはひとしおでした。親戚中もみんな喜んでいました。この赤ちゃんは「ミミ子」と名前がつけられました。ミミ子は「ミーちゃん、ミーちゃん」と言って、みんなにかわいがられました。

 ミーちゃんは栄養満点の堆肥と、母ちゃんと父ちゃんの深い愛情で、すくすくと大きくなっていきました。みるみるうちに母ちゃんと父ちゃんの大きさに成長していきました。そんな成長したミーちゃんは、ある夏の朝に、堆肥の中を散歩していました。するとすぐ近くに人間の話し声が聞こえてきました。声からすると人間の男の人でした。ミーちゃんは生まれて初めて人間というものを知りました。その人間は、そのミーちゃんが住んでいる堆肥のところまで来ました。そして「さあーて、ミミズでも捕まえてフナ釣りにいくべぇ」と独り言を言ったのです。ミーちゃんは人間の言葉は分かりませんでした。しばらくすると、ミーちゃんの近くにいた多くのミミズが、なにやらせわしく「早くみんな逃げろー!! 逃げろー!!・・・・」と、大きな声でミーちゃんのほうに向かって逃げてくるではありませんか。あたりは蜂の巣をつっついたような騒ぎになっていました。

ミーちゃんはそんな騒ぎに驚いて、すぐ近くにいた近所に住んでいるミミズの三平さんに「何がおきたのですか三平さん!! 何で、みんなが逃げているのですか?」と聞きました。するとミミズの三平は「ミーちゃん大変だぞ!! 人間が我々を捕まえに来た。早く逃げないと人間に捕まってしまうぞ。捕まったら最後、魚の餌にされてしまうぞ。それこそ一巻の終わりだ。ミーちゃんも早く逃げろ!!」と大声で言いました。ミーちゃんはそのことをすぐには理解できませんでした。まだ、父ちゃん母ちゃんからそのことを教えてもらっていなかったのです。そうこうしているうちに逃げ遅れた多くのミミズたちは、人間に捕まってしまいました。そしてとうとう、ミーちゃんのところにも、何やら棒みたいなものが入ってきて、堆肥を掘り返されました。そしてその掘り返された堆肥の中に、ミーちゃんも巻き込まれたのです。そしてミーちゃんも、とうとう人間に捕まってしまいました。

 捕まったミーちゃんは、何やら木で出来た、狭い入れ物の中に入れられたのです。多くの仲間のミミズも、その入れ物の中に大勢いました。ミーちゃんは何がおきたのか状況をすぐさま理解できませんでした。理解できないまま、ただ呆然としていると、ミーちゃんの親戚のおじさんの助五郎ミミズが「なんだ、ミーちゃんじぁないか。お前も捕まってしまったのか。かわいそうに」と言って、近づいてきたのです。それを聞いたミーちゃんは「なんだ、助五郎おじさんじゃないですか。おじさん、ここはいったいどこですか?」と聞きました。すると助五郎おじさんは「ここはな、人間が魚釣りのために、我々ミミズを捕まえて入れておく、餌箱の中だよ、ここに捕まったらもう逃げられない。我々の運命は魚の餌になってしまうだけだ。お前もやっと大きくなったのにかわいそうになぁ。父ちゃん、母ちゃんがこのことを知ったら悲しむだろうなぁ。まあ、捕まった以上覚悟しなければならないよ」と言ったのです。

それを聞いたミーちゃんは一瞬驚いて「えっ!!」と声を詰まらせました。そしてすぐに我に帰り「そうだったのですか。今まで誰もそんなことを教えてくれませんでした。ところで助五郎おじさん、魚の餌になるってことは死ぬということですよねぇ? 」と言ったのです。助五郎おじさんは「そうだよ。死ぬということだよ。堆肥の中に住んでいれば安全だが、いったん人間に捕まると悲惨だ」と言いました。するといったん冷静に戻ったミーちゃんでしたが「おじさん、何だか怖いよぉー。母ちゃん、父ちゃんに会いたいよー、会いたいよー、えーん、えーん・・・・」と言って、とうとう泣き出してしまいました。助五郎おじさんはどうしてやることもできず、ただ、見守るしかありませんでした。そして「ミーちゃん、こっちへおいで。みんなが寄り添っているので、その中に入れてくれるようにみんなに頼んでみるよ」と言ってくれたのです。ミーちゃんは泣くのをやめて助五郎おじさんの言ったとおりに、みんなのそばに近づいていきました。そして人間に捕まった多くの仲間のミミズの中に入れてもらえたのです。ミーちゃんはそのおかげで、ようやく少し落ち着くことができました。

 そんなやりとりが、餌箱の中におきていることなど、まったく気が付かない人間は「だいぶ捕まえたな。こんなもんでいいべぇ」と言って、堆肥から去っていきました。そしてフナ釣りの竿を持って近くの川へ行きました。釣り場に着いた人間は、餌箱を下に置き、フナ釣りの準備を始めました。「まずはミミズだなぁ」と言って、餌箱のふたを開けました。餌箱の中では、ふたを開けたものですから太陽の光がいっせいに入ってきました。寄り添っていたミミズたちはその光で驚き、大混乱していました。そんな混乱して驚いているミミズたちのいる中に、人間の手が入ってきたのです。そしてすぐに、ミミズたちの中の一匹が人間に捕まってしまいました。人間は「こりゃあ、まるまると太っていいミミズだ。きっと大きなフナが釣れるぞ」と言いました。捕まったミミズは「助けてくれー!! 助けてくれー!!・・・」と言って、全身の力を振り絞って暴れまわりました。そしてみんなは「助けてやれなくて申し訳ない、申し訳ない」と言って、ただ、なすすべもなく見守るしかありませんでした。

そしてしばらくすると人間が大きなフナを一匹釣り上げました。人間は「やっぱり大きいのが釣れた。こんないいミミズだ、まだまだ釣れるぞ」と興奮気味で言いました。そして餌箱の中に手をやり、次のミミズを探し始めました。そして若くてぴちぴちした太った元気のいいミミズを発見して、手で捕まえました。何と、それはミーちゃんだったのです。ミーちゃんは大きな声で「おじさん、おじさん、助けてー!! 助けてー!!・・・・」と何回も言って、暴れまわりました。人間は「こりゃあ、元気のいいミミズだ! めったにこんないいミミズには出会えないな」と言って、釣り針にミーちゃんを近づけて刺そうとしました。ミーちゃんは今まで経験したことのない恐怖感を全身で感じていました。そのため今までの倍の力で「助けてー!! 助けてー!!・・・」と大きな声で何回も叫んで、狂ったように暴れまわりました。しかし、人間の力の前には、何もなすすべがありませんでした。

そしてとうとうミーちゃんは釣り針に刺されてしまいました。ミーちゃんの血が、そのとき大量にあふれ出ました。ミーちゃんは針に刺された瞬間、全身に激痛が走り、あまりの痛さに我慢ができなくなり「痛いよー!! 痛いよー!! 母ちゃん、父ちゃん助けてー!! 助けてー!!・・・」と何回も何回も、ふたたび狂ったように叫びました。しかし、そんな声は届くはずがありません。餌箱の中にいる助五郎おじさんは「かわいそうに、かわいそうに」と言って泣いていました。人間はミーちゃんを刺した釣り針を川に投げ込みました。ミーちゃんは今まで経験のない水の中にぶくぶくと沈んでいきました。そしてだんだんと息が苦しくなってきました。ミーちゃんは釣り針に刺された猛烈な激痛と、息ができない苦しさの二重苦に襲われたのです。ミーちゃんの心は激しいパニック状態になってしまいました。しかし、ミーちゃんのできることは水の中で暴れまくることしかできませんでした。

そんな暴れている姿をいち早く、大きなフナに発見されてしまいました。暴れていることが、フナにはおいしそうで新鮮な獲物に見えたのです。フナは「おっ! おいしそうなものがいるぞ、きょうはついている。いただきだ!!」と思いました。ミーちゃんは、大きなフナが近づいてきたのを察して、自分が食べられるのではないか、という恐怖心が益々大きくなって「母ちゃん助けてー!! 父ちゃん助けてー!! 」と言って、益々暴れまくりました。それに加えて、水の中では息ができないことと、全身に大きな傷を負ったことで、体力は益々消耗していきました。そんな状況で、暴れもがき苦しんでいるミーちゃんのほうに、フナがどんどん近づいてきて、すぐそばまでやってきました。そのとき、ミーちゃんの恐怖心は頂点に達しました。と、そこへ大きなナマズも近づいてきて、ナマズはフナに「おいフナ!! この獲物は俺がいただくぞ。お前はあっちへ行け!!」と威張って言いました。するとフナは「ナマズさん、申し訳ないが、僕が最初に見つけた獲物です。僕がいただくのが魚の世界の常識ですよねぇ」と少し下手に出て言いました。するとナマズは「お前はお魚よし(人間だとお人よし)のお馬鹿さんだ。魚の世界は弱肉強食だぞ。小さいころメダカの学校で習わなかったのか、お馬鹿さんよ」と言いました。そして次の瞬間、ナマズはフナの一瞬のすきをついて、ミーちゃんをいきなり「パクッ」と食べてしまいました。それは一瞬の出来事でした。ミーちゃんの最後でした。ミーちゃんはナマズに食べられて死んでしまったのです。

ナマズはお腹がすいていたので、一気に口の奥までミーちゃんを吸い込んで食べたので、少し動いたとき、釣り針が口の中に引っかかりました。ナマズは「しまった!!」と思いましたが、後の祭りです。逃げようとしてナマズは必死に泳ぎました。人間は急な大きな引きに驚き、あわてて竿を上げました。しかし、なかなか引きが強くてあげられませんでした。悪戦苦闘の結果ようやく釣り上げました。川の中のフナは、なまずが人間に釣り上げられる様子を見ていて「馬鹿なのはどっちだ。人間の罠にはまりおって。僕は急いで食べないでよかった。弱い魚もときには得をするときがある、ということが分かった。昔からあわてる乞食はもらいが少ないということをナマズは知らなかったようだ」と思ったのでした。一方人間は「ナマズだったのか。どうりで引きが強いと思った」と言いました。

そんな周りの様子の雰囲気が、餌箱の中に伝わってきました。助五郎おじさんは「とうとうミーちゃんも魚に食べられたようだ。かわいそうに、これからだったのに。これを知ったら父ちゃん、母ちゃんはどんなにか悲しむに違いない。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」と念仏を唱えました。助五郎おじさんはミミズには珍しい信心深いミミズでした。念仏を唱え終えると「今度はわしらが魚に食べられる番だ。俺はいいミミズ生(人間だと人生)だった。後悔することはない」と思ったのでした。そしてしばらくすると人間が「きょうは大物が釣れたので、釣りは終わりにしよう」と言って、餌箱の中に入っている残りのミミズを川に投げ込みました。助五郎おじさんミミズと、仲間のミミズたちは、川の中に沈んでいきました。しばらくすると、フナやその他の魚がそこにやって来て、みんな食べられてしまいました。

一方、堆肥の中に住んでいるミーちゃんの父ちゃんと、母ちゃんは夕方になってもミーちゃんが帰ってこないので心配で、心配で不安でした。そんな心配している2匹のところへ、近所の親しくしている父ちゃんの飲み友達の甚助ミミズがやってきて「実はミーちゃんは、朝に人間に捕まってしまった。どうも助五郎おじさんも一緒に捕まったみたいだ」と2匹に言いました。母ちゃんは「え!! なんてことに!! ミーちゃんが散歩に出かけるといったとき、無理にでも止めればよかった。人間には気をつけるようにとよく言い聞かせておけばよかった。かわいそうに」と言って、泣きじゃくってしまいました。がっくりと肩を落とした父ちゃんは、悲しそうな小さい声で「じゃあ、葬式をしないといけないなぁ」と、ポツリと一言いいました。父ちゃんはそれを言ったきり、後は何もしゃべりませんでした。

そして翌日にミーちゃんと助五郎おじさんの合同葬儀が執り行われました。そんな合同葬儀の席上、ミミズたちは口々に「我々は敵に対して何の反撃手段もない。ただ、暴れることしかできない。これからは反撃する強力な武器を作り、敵を威圧しなければならない。そうしないと敵になめられ、最後には殺されてしなう。自然様にこのことを願い出て、武器の研究に着手する許可をもらおう」と言っていました。人間はそんなことが堆肥の中で、ミミズたちによって議論されていることなどまったく気が付きませんでした。
おしまい           

※ 将来ミミズは強力な武器(猛毒など)を身に着け、人間をやっつけることができるようになるかもしれません。猛毒を身に着ければ、人間は怖くてミミズを捕まえる人はいなくなるはずです。その結果、ミミズは生き物の餌などにされず、長生きできるのです。ミミズといっても私たちは「命」といイメージは、なかなかわきません。しかし、ミミズも血液が流れているりっぱな小さな命なのです。「命」を考えるとき、たまには「ミーちゃん」の「痛み」も思い出してみてください。