むかしむかし、ヨーロッパのあるところにハンガー王国という王国がありました。この王国は富国強兵をスローガンにどんどん国力をつけていました。隣の力のないユウセン王国はこのハンガー王国にいつもおびえていました。ハンガー王国の王様はレイ3世といいました。ユウセン王国の王様はギン2世といいました。ハンガー王国は、このユウセン王国に、いつ、侵攻して自国の領土にするかを考えていました。レイ3世は何か侵攻する口実をいつも家来と相談していました。そんなある日にある事件がおきました。ハンガー王国とユウセン王国の国の境界線あたりに、ハンガー王国の国境警備隊の兵士一人が誤って隣のユウセン王国の領土に入ってしまったのです。ユウセン王国の国境警備隊も弱小国ではありましたが一応軍隊の組織でした。いつもピリピリした国境付近は緊張状態の連続でした。そんな中で起きた事件でした。誤ってユウセン王国に入ってしまったハンガー王国の兵士はすぐにユウセン王国の兵隊につかまり、すぐに殺されてしまいました。これを知った、ハンガー王国のレイ3世はすぐさまユウセン王国のギン2世に対して宣戦布告したのでした。いつも侵攻することしか考えていないレイ3世にとっては、またとないチャンスがやってきたのでした。多くの兵隊を引き連れ、レイ3世はユウセン王国に攻め入ったのです。圧倒的な兵力の前にユウセン王国はあっという間に陥落してしまいました。

 この戦争によってユウセン王国のギン2世はハンガー王国の牢屋に入れられました。命だけは助けられ、一生牢屋生活を送る刑に処せられたのでした。このことがあとで、とんでもないことになったのです。そしてハンガー王国はユウセン王国を属国として統治することになりました。このユウセン王国は地下資源が豊富に埋蔵されている国でした。金、銀、さらに亜鉛、鉄鉱石などヨーロッパで一番の埋蔵量があったのです。ユウセン王国は貧乏だったためこれらの地下資源を開発する力がありませんでした。レイ3世はハンガー王国から多くの人々を隣の属国へ送り込み、鉱山の開発を進めました。自国の労働者ですから高い給料を払って開発を進めました。ところがハンガー王国の労働条件の悪い鉱山や、汚い仕事には属国となったユウセン王国の多数の人々を強制連行し、ただ同然で働かせていました。そのため益々ハンガー王国は栄え、世界の一、二を争うほどの大国となりました。世界の国々からはこのハンガー王国のやり方に対して多くの非難が集まりました。しかし、レイ3世はまったく気にせず、わが道を突き進んでいたのです。そしてとうとう、世界征服の野望に燃えるレイ3世は、同じ目的を持った同盟王国の二国と三国同盟を結び、ハンガー王国と肩を並べる強国のエキリス王国という国を三カ国で攻めたのです。ここの王様はイリザベス5世という女王の国でした。この王国は海をまたいだところにありました。そのため三国同盟の各王国は船を調達して攻めねばならなかったのです。このエキリス王国にも多くの友好国が参戦し、連合王国軍として力を貸してくれました。

この戦争は壮絶なものとなりました。ハンガー王国のレイ3世は国民総動員令を発し、すべての国力を投入しました。しかし、船の調達コストがだんだんとネックとなり、戦費もかさみ、又、内部の反王様派の造反もあり、とうとうこの戦争に負けてしまいました。他の同盟王国も同じく戦費がかさみ内部崩壊なども起こり、負けてしまいました。エキリス王国で戦後処理が始まりました。レイ3世はエキリス王国につかまり処刑されてしまいました。ハンガー王国はそのままレイ3世の長男であるレイ4世に統治させ、属国となっていた旧ユウセン王国は属国を解除され、牢屋に入れられていたギン2世は開放されました。そしてユウセン王国を統治することを任されました。ユウセン王国は前と同じく復活したのでした。それと同時にユウセン王国から強制連行されて、働かせられていた多くの労働者もハンガー王国から解放されました。しかし、過酷な労働条件下だったので、たくさんの労働者が病気や衰弱などで死んでしまいました。そしてハンガー王国は、国として存続する代わりに、すべての武器、兵隊を持つことを禁止されました。二度と戦争ができないようにされたのです。もし、これに違反した場合は、レイ4世一族はすぐに処刑され、王国はエキリス王国に没収されるという厳しいものでした。他のハンガー王国と同盟関係だった二国はエキリス王国の領土とされてしまいました。そして二人の王様も処刑されました。ユウセン王国の国民は今後戦争をしなくてもいいので、喜んでいました。しかし、この戦争によりユウセン王国はハンガー王国を憎むようになりました。国民の心の問題が残ってしまったのです。

そんな戦後処理がすべて終わって約30年の年月がすぎました。そのころハンガー王国のいたるところで、国民が行方不明になる事件がたびたび起こるようになりました。人々は「神隠し」などといって恐れていました。しかし、時間がたってくると真相が判明してきました。その原因は隣のユウセン王国の特殊な訓練を受けた兵隊が商人に化けて不法入国し、ハンガー王国の人々をさらっていたのでした。ユウセン王国のギン2世の命令で行われていたことも判明してきました。これに怒った、さらわれて残されたハンガー王国の家族は城に駆けつけ、レイ4世に何とか連れ戻してくれと頼み込んだのです。レイ4世は家族に「必ずさらわれた家族を取り戻すことを約束します。だから安心してください。」と、言いました。残された家族はその言葉を聞いて一応安心して帰りました。しかし、王様は考え込んでしまいました。「一応取り戻すと約束はしたが30年前の戦争によって国交は断絶したままだ。取り戻すすべがない。兵隊も武器もない。これではユウセン王国を脅すこともできない。」と、ひとり言を言いました。それを聞いていた、側近のカネアル財務大臣が「王様、エキリス王国のイリザベス女王に頼んで何とかしてもらえないでしょうか。エキリス王国ならユウセン王国と国交があります。貿易も活発に行われております。このルートで何とかなるような気がするのです。ユウセン王国はもともとエキリス王国が建て直した国です。ギン2世はエキリス王国に恩があります。イリザベス女王のことなら耳を貸すのではないでしょうか。」と、言いました。それを聞いていた王様は「なるほど。良い考えだ。早速エキリス王国にナカヨシ外務大臣を特使として派遣しよう。もし、ユウセン王国がイリザベス女王の言うことを聞かなかった場合、エキリス王国から経済制裁をしてもらおう。そしてわが国も、今行っている人道支援もやめることにする。」と、言いました。ユウセン王国は戦前と同じく貧乏だったのです。多くの鉱山が開発されましたが、これを生かす技術がありませんでした。

緊急に特使として決まったナカヨシ外務大臣はエキリス王国へと旅だって行きました。約一ヶ月かけてエキリス王国に着きました。早速イリザベス女王と「人さらいの問題」で会談しました。ナカヨシ外務大臣はレイ4世の考えをすべてイリザベス女王に伝えました。
そしてイリザベス女王は「経済制裁は慎重に考えなければなりません。その国の国民が窮乏します。その経済制裁ははっきりとお約束はできません。」と、言ってきたのです。それに対してナカヨシ外務大臣は「分かりました。そのことを王様に伝えます。しかし、何とかさらわれた国民を取り戻したいのです。この気持ちだけは分かってほしいのです。」と、言いました。それに対してイリザベス女王は「気持ちは分かります。残された家族の気持ちを思うと、私も人の子の親として無視することのできない重要問題です。私の国の友好国にも話をして協力してもらいます。きっと協力してくれるでしょう。このことを王様に伝えてください。」と、言いました。ナカヨシ外務大臣は「それは心強いことです。感謝します。」と、お礼の言葉を返しました。そんなことをいろいろ、なごやかに話あっているうちに会談は終了しました。

それから約3ヶ月が過ぎたある日、ハンガー王国の王様宛に一通の手紙が届きました。それはエキリス王国のイリザベス女王からのものでした。手紙の内容は「拝啓 親愛なるハンガー王国王様レイ4世様へ   このたび、ユウセン王国の王様のギン2世と「人さらいの問題」で話し合いました。しかし、ギン2世は耳を貸さず、まったく進展がありませんでした。恩着せがましく昔のことも言ってみましたが、心は硬く、どうすることもできませんでした。最後には考えてもいない経済制裁もちらつかせたのですが、何の効果もありませんでした。最後にはやれるものならやってみろ、周りの国の城を火の海にしてやるぞ!!という始末です。このユウセン王国はどうも秘密時に強力な武器を開発したみたいなのです。わが国の諜報員の報告にもこのことが報告されていました。これらの強気の発言の背景に、そのことが関係している、と考えたほうがいいかもしれません。とにかく強気なのです。結果、話し合いは失敗に終わりました。 敬具」ということが書かれていました。これを読んだレイ4世はがっかりしたと同時に、恐ろしさも感じました。期待していたものですから落胆振りは相当なものでした。しかし、何とか気を取り戻し「何かよい考えはないものかなぁ。」と、ひとり言を言いました。というのも明日が、さらわれて残された家族との話し合いがある日だったのです。王様は家族になんと報告しようかと思案にくれ、益々王様の苦悩は深まっていくばかりでした。

次の日、とうとう残された家族との話し合いが城の中で行われました。王様は正直にイリザベス女王の手紙のことを話しました。家族も何の進展もなかったことを聞いてがっかりしてしまいました。そして何か強力な武器を開発したことも気になりました。そして家族の代表は王様に「この機会に人道支援を打ち切ってください。そんな人権をなんとも思わない国に人道支援する意味がありません。どうか王様、頼みます。」と、言ってきたのです。王様は「人道支援を打ち切ると、ユウセン王国の国民が食えなくなってしまうのです。私も最初はそういうことを考えていました。しかし、ユウセン王国の国民のことを考えた結果、考えは変わりました。私もあなたたちの気持ちは十二分に分かっています。これからは、王国の英知を集めて解決策を考えます。」と言って、何とかその場をしのぎました。しかし、王様はこの問題で行き詰ってしまったのでした。そしてとうとう、王様は深酒しなければ、夜も眠れなくなっていったのです。

それから数日がたってから、隣のユウセン王国が破壊力の強い新型の大砲を開発して、その実験をしたというニュースが近隣諸国に流れました。この新型の大砲は一発でその国の城をすべて破壊することのできる超高性能の大砲だったのです。近隣諸国の王様たちは震えあがりました。ユウセン王国は貧乏なのですが、王国予算のほとんどを軍事費にまわす、強大な軍事王国に成長していました。戦前、戦争に負けた教訓からこのような軍事王国の道を選択したのでした。このことによって益々、「人さらいの問題」は難しくなっていったのです。

王様は毎日、毎日「人さらいの問題」で悩んでいました。そしてある日、一つの考えが浮かんだのです。それは王国のすべての階層の人達の代表を城に集めて解決策のアイデアを聞いてみよう、というものでした。王様はすぐにフミオクル郵便大臣に、王国のすべての階層の代表者を城に召集する手紙を送付するように命じました。その数はなんと300人にのぼりました。王様は王国のすべての英知を集めて解決策を考える「人さらい問題解決国民会議」を開いたのでした。その結果、いろいろな意見が出てきました。中でも、ある地方の年老いた農民の代表が「王様、耳が痛い話ですが、人さらいの問題はあなたのお父さんである故レイ3世様が戦前行ってきた悪政にさかのぼると思うのです。あのころ隣のユウセン王国の多くの国民を強制的に連れてきて、過酷な労働条件下で働かしたのです。病気で死んだ人もたくさんいました。その憎しみが、この人さらいの根っこにあるように思うのです。だからいくら経済制裁などの「もの」で対応しても何の効果もないと思うのです。要はこの問題は「憎しみ」という心の問題ではないでしょうか。」という意見を言ったのです。これを聞いていた王様は「そのことは関係していない、と断言はできない。しかし、近隣諸国に聞いてみたが、やはり何人かはさらわれているのだ。人をさらわれたのはわが国だけではないのだ。この事実を踏まえて考えてみると一概にそうとは思えないのだが・・・・・。」と、言いました。するとその老農民代表は「それはユウセン王国が、ハンガー王国に戦前の憎しみはない、と世界の国々に思わせるカムフラージュだと思うのです。ユウセン王国はそんな過去のことは気にしていない懐の深い国だ、と思わせたい演出ではないでしょうか。」と、言いました。王様は「うっうっうっうっ・・・・。」と、うなってしまいました。そのほかにもたくさんの意見が出ました。しかし、王様の頭にこの老農民代表の言ったことがいつまでも残りました。そうこうしているうちに国民会議は終了しました。

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それから一ヶ月が過ぎたある日に、王様は残された家族を城に招待して夕食会を開きました。家族をもてなして、今の苦しみを少しでも和らげようと考えた王様のアイデアでした。そして王国から100万ユーロス(今の日本のお金で換算すると300万円)が家族に支給されました。王様は「この人さらいは、わが国にも責任のいったんはあるように思います。このお金は今までの慰労金です。気持ちですから受け取ってください。」と、家族に向かって話しました。中には涙を流す家族もいました。家族もこのときばかりは王国の策のなさを批判する人はひとりもいませんでした。夕食会は成功に終わりました。しかし、王様の悩みは消えることはありませんでした。

何の策も出せないまま3年が過ぎました。隣のユウセン王国は益々軍事王国として成長していました。その脅威は益々大きくなるばかりです。そのころ、エキリス王国の提案でユウセン王国の近隣国3カ国とエキリス王国を含めて合計5カ国で、新型の大砲などの廃棄を求める軍縮会議を開く提案がなされました。各王国はこの会議を開くことに同意しました。ハンガー王国は人さらいの問題を解決する絶好のチャンスと捉えました。この軍縮会議で人さらいの問題を絡めたかったのです。何回か会議が開かれたのですが、利害が対立したまま、何の進展もありませんでした。ハンガー王国は力のあるエキリス王国に頼むばかりです。各国からは人さらいの問題を棚にあげて、軍縮問題だけでこの会議は進めるべきだ、という意見が出てきました。中には「ハンガー王国は自国で何の努力もしないで他の王国に頼んでばかりいる。人に頼む前に自分で精一杯努力すべきだ。精一杯努力した結果、だめだったので、何とか頼む。となれば、これならば分かる。ハンガー王国のやり方は少しおかしいのではないか。」という王国も現れてきました。しかし、中には「ハンガー王国は戦争に負けて武器も兵士も、持てなくなってしまったのだ。国交も断絶したままだ。他国に頼むしか道がないのだ。」と、ハンガー王国を擁護してくれる王国もいました。そんななかでの軍縮会議は益々混迷を深め、まったく進展しませんでした。ハンガー王国の王様はこんな軍縮会議に、もはや人さらいの問題は解決できない、と見切りをつけました。

そんな見切りをつけたころ、ハンガー王国はまったく雨が降らず、干ばつで甚大な被害を受けていました。ある日、王様はその被害の状況を視察しようと考えて、数人の家来を連れて馬に乗って城を出発しました。そしてある小さな沼に来ました。その沼は水がなく、魚が全部死んでいました。死臭があたりに漂って、臭くてたまりません。王様は家来に「何で魚は死んだのだ。」と、家来に質問しました。家来はあまりのあたりまえの質問にめんくらいました。そして「王様、何で死んだかって、あたりまえじぁないですか。水がなくなってしまったからです。魚は水の中でないと生きられないのですよ。なんでこんなことを質問するのですか。」と、逆に家来は王様に質問しました。すると王様は「そうじぁったなぁ。魚は水の中でしか、生きられないよなぁー。そして水が腐っても生きられないよなぁ。条件にあった水の中でしか生きられないよなぁ。この沼に水が流れていれば、魚は死ななくてもよかったんだなぁ。」と、言いました。家来は、王様が人さらいの救出のことばかり考えていたので、少し頭が変になってしまったのかと思いました。そしてその沼を過ぎて、こんどはある農村の小さな山間部落にやってきました。そして、あるみすぼらしい小さな家の前にさしかかりました。するとその家から人間の排斥物の匂いがプンプンとしてきました。王様は家来に「何でこの家の前だけこんなに臭いのだ。」と、言いました。すると家来は「ここは地形の関係で一年中、風がまったくあたりません。そのため風通しが悪くてこんなに臭いのです。」と、言いました。すると王様は「そうか、風通しか。」と、一言いったきりでした。そして計画通りにすべて視察を終えて城に帰っていきました。

翌日、王様は各大臣全員を集めました。そしてこんなことを言ったのです。「わしは人さらいの問題で一つの決断をした。それをきょうこの場で発表する。」と、突然言ったのです。大臣全員はびっくりしました。カネアル財務大臣は「王様、突然何を決断したのですか。」と、聞いてきました。すると王様は「実は、昨日干ばつの視察をして自然から学んだことがある。それは何事も流れがなければ物事は進まないということだ。何もしなければ腐るか、風化するか、忘れ去られてしまうか、だ。きのう見てきた魚が死んでいた沼と、風通しの悪い家の前を通りそれが分かった。」と、言いました。するとフミオクル郵便大臣が「王様、それだけでは分かりません。もう少し説明してくれませんか。」と、言いました。すると王様は「隣のユウセン王国と国交を回復する、ということだ。とにかく、人、もの、かね、などの流れがなくてはどうすることもできない。まず、国交を回復してすべてのものを流すのだ。すべてはそこからだ。」と、言いました。するとカネアル財務大臣は「王様、それは暴挙です。無謀すぎます。こちらから国交を回復するということの話を持っていくことは戦前の戦争の賠償金を支払うということですよ。莫大な金額になります。今、そんな予算はありません。国も干ばつで大変なときに、莫大な賠償金を用意することは大変です。へたをすると破産します。だからそれだけはやめてください。」と、言いました。すると王様は「財務大臣、埋蔵金があるだろう。わしは知っているのだよ。各役所で毎年の予算を余らせてため込んでいることを。わしを見くびっていたのか。全部分かっていたのだ。賠償金を払っても余るはずだ。実はわしの息のかかっている役人に秘密時に調べさせたのだよ。」と、言いました。すると財務大臣は「分かってしまったならば致し方ありません。しかし、そのお金は王国がいざというときのために使う、大切なお金です。国交回復して、さらわれた人が間違いなく帰ってくる保障は何もありません。暴挙のなにものでもありません。お考えを撤回してください。」と、言いました。すると王様は「国民は国の宝だ。今がそのお前のいういざというときだ。たとえ、一人でもさらわれればなんとしても取り返すのが国の責任だ。もう他の王国には一切頼まない。わしが直接ユウセン王国へ乗り込み、ギン2世と直接会って話し合う。戦前のことをまず謝り、そして賠償金を払ってくる。そして国交回復の証として平和条約を締結してくる。そして平和条約の中にユウセン王国がさらっていったわが国の国民全員を帰すことも盛り込む。これがわしの考えだ。」と、言いました。するとある大臣が「王様、もし、平和条約の中の、全員返す、ということが合意されなかったときはどうするおつもりですか。」と、質問したのです。すると王様は「もっともな質問だ。そうなったら、あなたも人の子の親ではありませんか、と言ってわが国の子供をさらわれた親のことを話すよ。相手も人間だ。こっちは最大に譲歩して話すのだから、相手は断る口実がないはずだ。そこを突いていくしかない。」と、言いました。するとある大臣は「無謀な冒険ですなぁ。」と、言いました。するとすかさず王様は今までとは違う大きな声で「お前らは、無謀だの、冒険だの、暴挙だの、といっているだけで何とかしなければならないという気持ちがない。これからは猛省してもらって王国づくりを真剣に考えてもらいたい。」と、各大臣に一喝したのでした。そして王様の考えはもう誰がなんと言おうと変わりませんでした。王様は自分のすべてをかけて断固とした態度で臨もうとしていました。しかし、家族の中にはそれにもかかわらず、王様のやり方に対して、不満を持っている人もいました。しかし、王様は根気よくその反対している家族に説明しました。そして家族全員から今回の王様のやり方に賛成してもらうことにこぎつけました。

そしてとうとうレイ4世は少しの家来を連れて隣のユウセン王国へ乗り込み、直接ギン2世と話し合いました。レイ4世はまず、前に開かれた「人さらい問題解決国民会議」のときの老農民の言っていたことを思い出していました。そしてギン2世に戦前、自分の親父であったレイ3世が行った悪政を謝ったのでした。そしてこのことを謝ってからは何の障害もなく、すべての案件が面白いように成功していったのです。そして最後にギン2世は「このような日を私は待っていました。」と、言ったのです。そしてギン2世はこうも言ったのです。「あなたが、あなたのお父さんが戦前に行ったことを心から謝ってくれたので私の気持ちは決まりました。もしあなたが一言もそのことに触れないで、どんなに条件面を吊り上げても私は平和条約を締結しなかった。」と。

正式に批准され、履行された平和条約でユウセン王国に拉致されていたすべてのハンガー王国の国民は全員帰ってきました。そして難航を極めた五カ国軍縮会議は、最初は相当な対立はありましたが、途中からユウセン王国の態度に変化がおきて、話がまとまる方向へといったのです。最終的にはユウセン王国を除く4カ国で大規模な経済援助をする代わりに、ユウセン王国が新型の大砲を廃棄するということで話がまとまりました。それ以後、ユウセン王国も近隣諸国との活発な経済交流がなされ、徐々に豊かになっていきました。そして、末永く、ハンガー王国とユウセン王国は、人、もの、かね、の流れが活発になり両国は幸せになったとさ。
おしまい