昔々、北ヨーロッパのスカンジナビア半島に「バイキング王国」という国がありました。この国は山もあり、海もある国でした。そんな国の、山あいの小さな田舎の村に、ヤングという善人の青年が住んでいました。ヤングは狩が好きで、山に入っては弓で狩をしていました。ある日のこと、いつものように山に入って、狩を楽しんでいるとき、偶然イノシシを発見しました。ヤングは「おお! よい獲物を見つけたぞ。」と、言って、恐る恐るイノシシの近くまで行きました。しかし、イノシシは、人間が近づいてきたことを察知して、逃げていきました。普通ならヤングは、後を追わないのですが、きょうは何としてもイノシシを捕まえようとして、後を追ったのです。そして後を追うのに夢中になり、山の奥へ、奥へ、と入っていきました。そのうちにイノシシを見失ってしまいました。気が付いてみると、ヤングは道に迷ってしまったのです。

 道に迷ったヤングは、しばらく山の中を歩いていました。ヤングは「これは困ったぞ。家に帰れないかもしれない。無理してあのイノシシを追うのではなかった。」と、言って、無理したことを反省しました。そして、そんなことを考えながら一時間ぐらいは、山の中を歩いていました。と、そのとき、なにげなく、遠くのほうを見たら、湯気が上がっているではありませんか。ヤングは「あれはいったい何だ。」と、ひとりごとを言いながら、急いでその湯気の出ているところまで行ってみました。行ってみると、そこは自然に湧いている温泉だったのです。ヤングは「こんなところに温泉があったとは!」と、言いながら、驚いた様子で温泉のそばまで行って見ました。人間が五人ぐらいは入れる大きさの、丸い温泉でした。熱さはどの程度あるかと思って、ヤングは恐る恐る温泉に手を入れてみました。そして、「おっ! 入るにはちょうどいい湯加減だ。」と思ったのです。温度は約43度ぐらいだったのです。そして急いで服を脱いで、温泉に入りました。「ああ、いい湯だ。これで疲れもとれるぞ。ラッキー、ラッキー。」と、言いながら、しばらく入っていると、温泉の向こうから数人の人間のしゃべり声が聞こえてきました。ヤングは急いで温泉から上がり、すぐに服を着て、草むらに隠れました。そしてすぐに、三人の男たちが温泉のすぐそばまでやってきたのです。その中の親分らしき者が「おい、こんなところに温泉があるぞ!」と、言いました。他の二人も「へえー。こんなところに温泉があったのか!」と、言って驚いた様子でした。そして親分らしき者が「いやあ、きょう泥棒してきて、だいぶ儲かったぞ。みんなご苦労だった。この温泉に入って疲れを取ろうぜ!」と言ったのです。そんな様子を見ていたヤングは、この三人は、今、強盗殺人罪で全国に指名手配されている三人であることにすぐ気付きました。この国の善良な国民を震え上がらせている極悪人だったのです。極悪人の三人は、入ってすぐに「ああいい湯だ。」と言い合っていました。ところが、ところが、すぐに、どんどんとお湯の温度が下がっていきました。極悪人の親分らしき者が「何だ、この温泉は!! 何で急に温度が下がってしまうのだ!! このままでは死んでしまうぞ!!」と、大声で叫んだのです。そんなことを叫んでいる間にも、お湯の温度は、どんどん下がっていくばかりです。とうとう水が凍るぐらいの温度まで下がってしまいました。三人はたまったものではありません。すぐさま温泉から出ました。そして、ブルブル、ブルブル、と震えだす始末です。三人の中の一人が「早く服を着ないと、かぜをひくぜ。」と、言いました。そしてこの三人は、急いで服を着たのでした。そんな様子を見ていたヤングはびっくりしました。そして心の中で「変な温泉だなぁー。俺が入っていても何の変化もない。この温泉はいったいどういう温泉なのだ?」と思ったのです。そうこうしているうちに三人の極悪人は震えながらどこかへ行こうとしていました。ヤングは危険と思いながらも、その三人を尾行しよう、と考えたのです。そして三人に気付かれないように尾行していきました。

 しばらく尾行していくと、小さな小屋にたどり着きました。ヤングは「ははぁー。ここがあの極悪人どもの隠れ家だな。」と、思いながら、三人に気付かれないように、静かにその場所を離れて、またさっきの温泉のあるところへ戻りました。戻ったら、温泉は最初の43度ぐらいの温度に戻っていました。ヤングの疑問は益々深まっていくばかりです。ヤングは「とりあえず、まず家に帰ることが先決だ。」と考えました。そして最初に、極悪人の三人が歩いてきた道をたどって、何とか自分の村にたどり着くことができました。

 そして家にたどり着いたヤングは、疲れていたので、一晩ぐっすりと寝ました。そして翌日、朝起きたヤングは考え込んでしまったのです。「うーん。うーん。何であの温泉はあの三人が入ったら温度が下がったのか?」と。こんなことを三日ばかり考えていました。そしてヤングは「きっとあの温泉は善人と悪人を区別することができるに違いない。悪人が温泉に入ると温度が急激に下がってしまうに違いない。」と、いう一つの仮説を立てました。「そうか、もしかしたら、あの温泉は人を見る温泉かもしれない。」と、いう、とんでもない仮設だったのです。ヤングはすぐにこの仮説を証明したいと思い、この国の都の「オスホルム」という大きな町の牢屋に入れられている極悪人を、役人に温泉まで連行して来てもらって、この温泉に入れて実験したいと思いました。そんなことを考えたヤングはいてもたってもいられなくなり、すぐに、この村から歩いて二日かかる「オスホルム」の町へと向かいました。

この町に着いたヤングは、すぐに牢屋の番人をしていた役人に温泉のことを話し、自分が考えた仮設を話しました。ところがこの役人は「この若造は頭が変になったのか。」ぐらいにしか、思ってもらえませんでした。これは仕方がないと思って、すぐに、あきらめずに、ヤングは、その役人の上司のサンダーという男に温泉のことを話しました。サンダーは「なかなか面白い話だ。もしそれが本当ならお前はこの国の英雄になれるぞ。」と、言ったのです。ヤングはすぐに「どうして私がこの国の英雄になれるのですか?」と、すぐに問い直すと、サンダーは「実はヤング、この国の王様レイ12世様は、この国にあまりにも多くの海賊や泥棒が多いので、頭を痛めていらっしゃるのだ。外国からは、あなたの国の海に近づいた船は帰ってこない、いったいどうしたことなのだ、という問い合わせが殺到しているのだ。これはこの国の海賊どもが、外国の船を襲って、乗っている人々を皆殺しにし、金品を奪っているに違いないのだ。しかし、海賊どもも、なかなか利口で、証拠を残さないのだ。加えて、国内では強盗殺人事件が頻繁に起きている。こんな状態では王様も安心して夜も眠れないのだ。そしてこんな現状を、なんとか改善して、海賊や極悪人のいない、国民が安心して生活できる国を創りたいと考えていらっしゃるのだ。しかし、海賊や極悪人どもの検挙率は低いのだ。兵隊の数も増やして対応しているのだが、さっぱり効果が上がっていない。そんなわけで、お前が言ったことが本当なら嘘を言っている人間でも、すぐに分かるだろう。そうすれば多くのものを検挙できるのだよ。そうなれば、お前は王様の悩みを解決できることになる。だから、英雄になれるということだ。」と、言ったのです。ヤングはこの話を聞いて、何だか怖くなってきました。そして心の中で「もし、自分の仮説が間違っていたら、王様によってギロチンにかけられて、処刑されるのではないか。」と、思ったのです。そんなことを思っていると、サンダーが「私が王様にこのことを話しておく。明日、またこの牢屋の前に、朝の九時に来なさい。」と、言ったのです。ヤングは話がどんどんと進んでいったので、益々怖くなってきました。しかし、ここまできた以上、腹を決めなければならない、と考えました。そして、宿を探して明日に備えることにしました。

腹が減ったらおまんま、精神はプラスエネルギーキャラ軍で元気!

 ゆっくりと休んだヤングは、約束の時間に牢屋の前に行きました。そうすると、な、な、何と、そこには、王様と、兵隊が千人と、王様の世話係が百人いたのです。王様は馬に乗って、ヤングの来るのを待っていました。あまりの物々しさに、ヤングはびっくりしてしまいました。そしてサンダーが「ヤング、まず王様に拝謁しろ。そして王様がお前に話があるそうだ。」と、言いました。ヤングはすかさず、王様に拝謁しました。そうすると王様が「そちがヤングか。サンダーから話は聞いた。そちの話が本当かどうか、きょう一人の極悪人のワルーダという男を、牢屋から出して、そちの村の山奥の温泉に連行して、そちの話が本当かどうか、実験することになった。そちもすぐに出発の準備をしろ。」と、いきなりおっしゃったのです。ヤングは「はい王様。分かりました。私はすぐに出発できます。」と、言いました。そしてサンダーが「ヤング、俺と一緒に歩いて王様に道案内をしてくれ。」と、言いました。ヤングはすかさず「はい。分かりました。」と、言いました。そして牢屋から、「ワルーダ」という名前の、一人の極悪人が出され、兵隊の厳重な護衛の下に連行されて、温泉に出発したのでした。この「ワルーダ」は強盗殺人で10人殺している死刑囚でした。兵隊の隊長の声が、けたたましく朝の町に響きました。「さぁー、もろども、出発だぁー」と。そして兵隊が「オー! オー!・・・・」と叫びました。ヤングは「もう、どうすることもできない。もしこの極悪人を温泉に入れて、温度が下がらなかったら、俺の命を王様に差し上げるしかない。」と、再び腹を決めたのでした。

 二日ばかり野営して、ようやく目的地の温泉に着きました。着くとすぐに王様が「なかなかいい温泉だ。」と、言いました。温泉はヤングが最初に発見したときと同じく、湯気を出していました。そして王様が「みなのもの、少し休んでから実験をする!!」と、命令を出しました。そんな王様の命令を聞いた兵隊たちは「オー! オー!」と言ってそれぞれ休みました。

しばらく休んでいたヤングは王様に「この近くに、全国に指名手配されている強盗殺人犯の隠れ家があります。前に温泉に入っていたら、この犯人たちがやってきて、温度が急激に下がったので、あわてて温泉からあがったところを、あとをつけて発見しました。」と、報告しました。王様は「でかしたぞ、ヤング。それでは兵隊を百人連れて隠れ家まで行ってきて、捕まえて来い。」と命令しました。ヤングは王様が兵隊の中から選んだ、精鋭部隊百人を連れて、前に行ったことのある隠れ家に向かいました。

 そしてその隠れ家に着くと、三人の極悪人たちは、隠れ家で酒を飲んでいました。宴会を始めていて、べろん、べろん、に酔っ払っていました。そして急に外が騒がしくなったことに気付いた極悪人の一人が、隠れ家の小さい穴から外を見ました。そして腰を抜かしてしまいました。「親分!! 周りは兵隊でいっぱいですぜ!! もう終わりだ!! 」と叫んだのです。と、その瞬間、兵隊がその隠れ家を急襲し、三人を捕まえてしまいました。極悪人の三人はいったい何が起きたのか、さっぱり分かりませんでした。

 極悪人三人を捕まえてきたヤングは、すぐに温泉のところへ帰り、この捕まえてきた三人を王様に差し出しました。そして王様は「このものどもは、金のためなら、人を殺すことなど、何とも思わない、超極悪人なのだ。」と、言いました。そしてすかさず「ヤングよ。本当にでかした。ほめて使わす。」と言ったのです。王様にほめられたヤングは「もったいないお言葉です。」と、言って、後ろに下がりました。そんなことを言ったりしている間にも、極悪人の三人は「いったいここで何が起きているのだろう?」と、いうような不思議な顔をしていました。

 そうこうしている間に、いよいよ、この温泉の実験が始まろうとしていました。王様が「牢屋から連れてきた極悪人ワルーダをすぐに温泉に入れるのじゃ!!」と、いう命令が下りました。サンダーが「はい! 王様、分かりました!」と、言って牢屋から連れてきた極悪人ワルーダを裸にして温泉に入れました。何の説明も受けていなかったワルーダは、何が何だかさっぱりと分かりませんでした。それでもワルーダはうれしそうに温泉につかりました。ヤングは、果たして温泉の温度が下がるかどうか、心配で、心配でたまりませんでした。そんなことを心配していると、なんと温泉の温度が見る見るうちに下がってきました。これに驚いた極悪人のワルーダは「急に温度が下がってきあんしたぜ。」と、サンダーに言いました。そしてつづけて「このまま入っていたら寒さで死んでしまいますぜ。」と、言いました。すかさずサンダーは「よし分かった。温泉から出ていいぞ。」と、言いました。そして極悪人のワルーダは温泉を出て、すぐに服を着ました。それを見ていた王様は「念のために、ヤングも入ってみろ!」と言ったのです。ヤングは「王様、ほんの少しお待ちください。温泉の温度が徐々に上がってまいります。適温になりましたらすぐに入ります。」と言いました。王様は「そうか。それでは少し待つとしようか。」と、言いました。そしてしばらくすると温泉の温度がヤングの言ったとおり、前の約43度の適温に戻りました。すかさず、ヤングは温泉に入りました。ヤングが少し長く温泉に入っていても、温泉の温度は下がりませんでした。これを見ていた王様は「よし! この実験はヤングの言ったとおりの結果になった。この温泉の名前を「世直し温泉」と命名する。そしてここに、専門の役所を作り、全国から海賊や極悪人と思われるものたちを、この温泉に一人ずつ入れて、嘘を言っているかどうか、見極めることとする。そしてこの役所の総責任者をヤングとする。きょうからヤングはバイキング王国の「極悪人撲滅担当大臣」に任命する。ヤングよ、心して、この国のためにがんばってくれよ。」と、言ったのです。そしてすぐに王様は「ヤングよ、私のこの考えを、受けてくれるか。」と、言ったのです。ヤングは「光栄であります。身を粉にしてがんばります。」と、言ったのです。

 そんなことがあってから、数日後に、温泉のところに新役所の「こころ検査所」の、建設が始まりました。千人は宿泊できる施設も完成しました。始まって二年で完成しました。この施設の建設で雇用にも貢献することができました。そして全国から、多くの海賊や、極悪人と思われるものが送り込まれました。この施設の周りは、逃げられないように、高い柵も設けられました。そして、常時二千人の兵隊が常駐していることとなりました。そして、その総責任者となった「ヤング極悪人撲滅担当大臣」の、指揮のもと、毎日、毎日一人ずつ温泉に入れて本当の犯人を見つける作業に追われたのでした。全国の海賊や極悪人と思われる人々には、王国から「いい温泉があるから無料で泊まりに行きませんか。」と、いうふれこみで集められたのです。何も知らない、そんな人々は、温泉に入る前に、担当役人から必ず質問される項目がありました。それは「あなたは善人だと思いますか? それとも悪人だと思いますか? 」と、いう質問だったのです。ここに送り込まれた全部の人々は「はい、私は善人です。」と、答えて温泉に入っていきました。そしてその結果、ほとんど全部の人々は温泉に入って、すぐに温泉の温度が下がる結果になりました。そして温度が下がってしまうことに、びっくりして、すぐに温泉から上がり、そのまま牢屋に入れられてしまいました。

そんな状況の報告を受けた王様は「人間は、相手が知らないと思うと、しらばっくれる動物だ。そして簡単に嘘をつく動物だ。」と、つくづく思いました。そして、そのことを、心に刻んで、王国を治めていきました。国民も「悪いことをしても、結局は捕らえられて、牢屋に入れられるのだから割に合わない。」と、分かったので、悪いことをする人はどんどん減っていきました。その結果、この王国には、海賊や極悪人が、ほとんどいなくなり、国民が安心できる、すばらしい王国になりました。そして王様は、王国の名前を、バイキング王国から「ノルホルム王国」と変更しました。そしてこの王国は、漁業、農業、林業、手工業などの諸産業が発達して、末永く栄えました。しかし、なぜ温泉が善人と悪人を、見極めることができるかは、誰も永久に分かりませんでした。  おしまい    

あなたはこの温泉に入ると、温度が下がるほうですか、それとも温度は、そのままの方ですか。